これからの離婚に必要なADR。共同親権時代に必要な選択肢とは【後編】

「話し合いで解決したい。でも選択肢が少ない」――そう感じた竹内弁護士は、国内外でAD
R(裁判外紛争解決手続)を学び、実践してきました。ADRとは、裁判所を通さず、中立的
な専門家が話し合いをサポートする解決方法です。
後編では、竹内弁護士がADRに関わるようになった経緯、アメリカでの研修で目にした光
景、そして共同親権時代を迎える日本でADRが果たす役割について伺います。弁護士だか
らこそ見えてきたADRの可能性と課題とは。
「主張・立証だけでは幸せになれない」という現実
――竹内先生が弁護士としてADRに関わるようになった経緯を教えていただけますか。
もともと家事事件を多く扱う中で、主張を立証することが必ずしもその方の幸せにつながら
ないな、と感じることがあったんです。大部分の事件は、和解で解決するのが理想的だと思
っていました。
ただ、調停だけでは選択肢として少ないのではないかと。今は調停委員さんも勉強されてい
て、優れた方が多いのですが、以前は、当事者への言い方が適切でない調停委員もいたり、
とにかく早く終わらせるという裁判所の方針が前面に出たり……。
調停でも主張書面をやりとりすることが普通になっていて、「調停を使う意味とは何だろ
う?」と疑問を感じることもありました。
そんな中でADRという方法があると知り、これなら適切に解決できるのではないかと感じ
ました。
当時、日本ではあまり一般的ではなかったのですが、海外にはADR調停人の研修があり、
弁護士がADRの調停人をやっているという話も耳にして、もっと勉強したいと思ったこと
がきっかけです。
紛争解決のプロである弁護士がADRに携わる意義
――海外では弁護士がADRの調停人をやることが多いのでしょうか。
限られた経験からのお話になりますが、欧米では珍しくないようです。アメリカで会った弁
護士さんの中には、対立構造に疲れてADRしかやらないという方もいました。「ああ、そ
ういう道もあるんだ」と、当時とても印象的でした。
――弁護士がADRに携わる意義というのはどういったところにあるのでしょうか。
心理職やソーシャルワーカーの方もメディエーター(仲介者)として素晴らしい活動をされ
ていますから、必ずしも弁護士である必要はありません。
ただ、弁護士の強みがあるとすれば、いろいろな紛争を見慣れているということです。解決
できるタイミング、当事者の気持ちの動き、「ここでこの言葉を出すと紛糾してしまう」と
いった勘所が、自然に培われている。それが活かせるのだと思います。

――他の職種の方とはまた違った視点が活かされているのですね。
弁護士を何年かやっていると、際どい場面を何度も経験します。「ここから先は話し合いが
激化して危ないな」という感覚です。紛争がかなり激しい案件も経験しているので、そうい
う意味では対応力ができているのかもしれません。
依頼者のみの利益に留まらない解決方法を学ぶ
――竹内先生は、2016年にアメリカ国務省の”International Parental Child Abduction”(IVLP) プログラムに参加されたのですよね。どのようなことを学んだのですか?
法律的なことだけでなく、NPO法人がどのように父母、親子を支えているか、DV被害者や
家族全体、子どもへの支援など、当時日本にはあまりなかった民間の支援体制を見ることが
できました。面会交流支援機関もアメリカではすでに整備されていて。
その中で、ADRを実践している弁護士事務所を訪問する機会があって、そこでADRの実務
の具体的なイメージを持つことができたんです。
――国内でも含めて、どのように先生はADRの知見を深められていったんでしょうか。
当時、同志社大学などで、調停に関する研修プログラムが企画されていたため、極力参加す
るようにしていました。
そこで学んだのは、調停人のスキルももちろん大事ですが、調停に関わる代理人の役割も重
要だということ。
対立を煽るのではなく、解決を見据えた代理人活動。特に家族の分野では子どものことも考
えて、依頼者の利益だけでなく、その方たちが発展的に進めるように支えていく。調停人も
代理人も、そういう視点を持つことが大切だと学びました。
安心して話し合える場を増やすために
――ADRが抱える課題についても伺ってもよろしいでしょうか。
課題は大きく2つあります。
1つは、そもそもADRが知られていないこと。「ADRって何ですか?」、というところから
説明しなければならない状況です。まず、ADRという手段があることを知ってもらうこと
が第一の課題です。
もう1つは、ADRを知っていただいた後の課題。何をどう協議すればいいのか、イメージで
きない方が多いんです。たとえば共同親権が選択制になって、話し合いの場面が増えたとし
ても、そもそも何を協議すればいいのかわからないまま放り出されてしまっては意味があり
ません。
ADRでどういうことが協議できるのか、そこまで含めて知られていくといいと思います。
そして、間に入る調停人の資質も重要です。一定レベル以上の質を維持することも、ADR
側の課題だと考えています。ADR協議の垣根を低くすることと、調停人の質を保つこと。
この2つですね。
――共同親権が導入される中で、ADRという選択肢が一般的に広まるといいですね。
そうですね。それは今後とても大事だと思います。
家族の問題は、一度決めたら終わりということではありません。特にお子さんの成長に応じ
て、話し合わなければいけないことが出てきます。
そのとき、当事者の方がストレスなく、気軽に、継続的に利用できる場所。安全で安心して
話し合える場所を増やしていくことが大切です。そういう場があるという社会認識が広まれ
ば、より安心できる場所になっていくと思います。

読者へのメッセージ――最初に何もかも決めなくていい
――最後に、ADRを検討する際のアドバイスがあれば、読者へ向けたメッセージとしてお伺 いしたいと思います。
まず、離婚するからといって、相手と徹底的に戦わなければいけないわけではありません。
あまり争いたくないと思っているのであれば、ADRを検討する価値があります。
それと、ご相談の段階で「どうしたいか」を明確に結論を決めていなくても大丈夫です。A
DRを試みることで、考えにも変化が生じるでしょうし、思わぬ解決策が見つかるかもしれ
ません。
最初にすべてを決めるのではなく、気持ちや考えに変化があるかもしれないという前提でや
ってみる。それが大切だと思います。
ただ、どうなるかわからないけどやってみるというのは、不安だと思うんです。最初から決
まっている方が安心ですから。その不安と、ちょっとした期待を支えてあげるのが、ADR
の調停人の責任だと考えています。
――お一人だと考えすぎて行き詰ってしまうかもしれませんが、専門家の方が一緒に考えて くださると、すごく心強いでしょうね。
ADRの調停人は中立です。それは絶対に守らなければいけない立場です。ただ、当事者の
方がまだ見えていない違う側面を示すことで、考えるきっかけを作ることはできます。
一人で考えると、どんどん同じ方向に考えてしまったり、考えすぎてわからなくなったり、
不安になってしまう。「こういう視点で考えてみたらどうですか?」とお伝えできるのが、
ADRの良さだと思います。
―――
竹内弁護士は、法務大臣の認証を受けたオンライン調停サービス「リコ活調停」でも調停人を務めています。対立を深めずに話し合いで解決したい方は、ADRという選択肢もぜひ検討してみてください。
竹内裕美(たけうち・ゆみ)
弁護士、日本弁護士連合会 家事法制委員会 事務局次長。弁護士法人鬼頭・竹内法律事務所所属。愛知県弁護士会所属。2000年弁護士登録。離婚事件を中心とした家事事件に25年間携わる。2016年アメリカ国務省IVLPプログラム参加。愛知県弁護士会紛争解決センター副委員長・国際ADRあっせん仲裁人、公益社団法人日本仲裁人協会常務理事・中部支部長として、ADRの普及に尽力。リライフテクノロジー取締役。