対立構造を深めない離婚の方法。弁護士が 語るADRという選択肢【前編】
離婚を考えたとき、「裁判で争うしかない」と思い込んでいる方もいるかもしれません。実は、対立を深めずに話し合いで解決できるADR(裁判外紛争解決手続)という方法があります。ADRは、裁判所を通さず、専門家が間に入って当事者同士の合意形成をサポートする仕組みです。
国内外でADRの研修を重ね、実務経験も豊富な竹内裕美弁護士に、弁護士の視点から見たADRの可能性について伺いました。前編では、裁判との違いや、ADRが向いているケース・向いていないケースを詳しく解説します。
裁判とADR(裁判外紛争解決手続)、その違いは?
――竹内先生は弁護士として、ADRという解決手段をどのように位置づけていらっしゃいま
すか。
紛争が起こった場合、今は裁判が一番最初に思い浮かぶ方が多い状況です。しかし、ADRは裁判と同くらい大事な選択肢の一つだと考えています。もちろん向き不向きはありますが、まずADRという選択肢があることを知っていただきたいですね。
――改めて、裁判とADRの違いについて教えていただけますか。
裁判の大きなメリットは2つあります。1つは、証拠提出や証言の機会がきちんと確保されていること。もう1つは、お互いの意見が合わなくても、裁判官という最終判断権者がいるので、必ず結論が出ることです。
ただ、デメリットもあります。主張をやりとりする中で、どうしても対立構造になってしまう。本来はそこまで感情が対立していなかったのに、書面で主張反論を重ねることで、かえって対立が深まってしまうリスクがあるんです。
そして、判決が出てもそこで終わりで、その後の関係までは考慮されません。特に子どもがいる場合など、離婚後も親子関係が続く父母にとっては、勝ち負けで終わってしまう裁判は、本来はあまり向いていないかもしれません。
対立構造を深めない、ADRだからこそできること
――ADRだと対立構造が深まらないのはなぜでしょうか。
ADRでは、お互いの主張の背景にある本当のニーズをつかみ取ることができるからです。相手を攻撃するのではなく、建設的に解決に向けて進んでいく。それがADRの大きなメリットです。
裁判では判決で決められる内容が限られていますが、ADRなら柔軟に対応できます。これは裁判では決められないけれど、「こういうことも決めておくと安心だよね」という内容まで話し合えるのが特徴です。

――具体的には、どういった内容が決められるのでしょうか。
日常的な細かな内容ですね。たとえば、家を出る側の具体的なスケジュールや、お互いの荷物をどう分けるかといったこと。判決だとお金で切り分けられてしまいますが、和解やADRなら実際の生活に即した取り決めができます。
お子さんの面会交流も同じです。どういうふうに迎えに行くか、何時にどこで、どんなことに気をつけるか。こうした細かな約束事は、ADRだからこそ決められる内容です。
また、今すぐは難しいというケースでも対応できます。たとえば「半年後や1年後に再調整しましょう」という合意もできます。その間、お互いにどういうツールで情報共有するか、どんなことを心がけるかといった、判決では決められない内容まで話し合えるんです。
お互いの要望を聞きながら、意見が合う部分を育てていく。それがADRの良さだと思います。
「言いたいことが言えた」という自信が未来につながる
――竹内先生は弁護士として裁判にも関わっていらっしゃると思いますが、裁判とADRで終わった後の満足度に違いを感じられますか。
DV事案のように、ADRに向かないケースもあります。ただ、それ以外のケースでは、明らかに違いがありますね。
印象的だったのは、かつての依頼者の方の言葉です。その方は和解で終わったのですが、今まで自分の言いたいことが相手に言えなかったそうです。でも話し合いを通して初めて、自分が思っていることをちゃんと言えて、それを踏まえていろんなことが決められた。それがすごく良かったとおっしゃっていました。
これは満足度というより、その方の自信につながっていくんだと思います。自分で自分のことを決められるのだ、と。
特に離婚のような家事事件では、紛争を終わらせることだけが目的ではありません。その後、その方が区切りをつけて、本来の生き方をしていくことが大切です。だからこそ、自信を持って終われることが重要で、ADRはそういう納得につながりやすいと感じています。
ADRが向いているケース・向いていないケース
――先ほど少しDV案件のお話が出ましたが、ADRが向いているケース、向いていないケースをどのように判断されていますか。
向いていないのは、当事者の間に歴然とした支配・被支配関係がある場合です。あまりに力の差が激しいと、話し合いといっても結局は支配している側のペースで進んでしまう。かえって支配されている側を傷つけることになってしまいます。
DVや虐待で苦しんでいる方に、さらに被害を与えるようなことがあってはいけません。そこは見極めが必要です。また、一方が話し合いを完全に否定している場合も、ADRは難しいでしょう。
逆にADRが向いているのは、少なくとも話し合いをしてみたいという思いがある場合。解決するかどうかはやってみないとわかりませんが、その意思があればやってみる価値はあります。

特に向いているのは、今後も関係が続く場合です。お子さんがいる離婚なら、親子の関係は続いていきます。紛争を先鋭化させるのではなく、関係を整えるという意味で、ADRは有効だと思います。
あと、裁判の精神的負担が大きすぎる方もいらっしゃいます。その方の個性や精神状態によっては、裁判に行くとかえって潰れてしまう。そういう場合でも、なるべく負担なく話し合いができるADRが向いているケースの一つです。
――裁判で心が折れてしまう方というのは、やはり裁判の期間の長さなどが影響しているのでしょうか。
期間の長さを気に病まれる方は多いですね。それと、対立構造になりすぎることの負担もあるでしょう。主張書面という形で自分の悪口がたくさん書かれたものを見せられることで参ってしまう方もいます。それがADRで避けられるなら、避けた方がいい心労だと思います。
紛争解決のプロが間に入る安心感
――依頼者が離婚相談に来られた際に、どのようにADRを提案するのですか。
離婚の場合、日本では裁判の前に、必ず家庭裁判所の調停から始めなければならないというルールがあります。ADRは、家庭裁判所の調停のさらに前段階に位置づけられます。
相談内容を伺う中で、ADRが向いていると判断した場合には、ADRという選択肢があることをしっかりお伝えします。たとえば、今後もお子さんのために関係が続いていく方や、裁判の対立構造で精神的に参ってしまいそうな方には、ADRでの話し合いをお勧めすることが多いですね。
また、裁判で立証が難しそうなケースでも、ADRで話し合いを進める中で意外と解決できることがありますから。ADRでは、紛争解決に慣れた専門家が調停人として間に入るという点が、依頼者にとっても安心材料になると思います。
期間も裁判や調停に比べて短くなる可能性があることや、柔軟な解決ができることなど、ADRのメリットを具体的にお話しして、ご本人に選択していただくようにしています。
離婚問題の解決方法は、裁判だけではありません。対立を深めずに話し合いで解決できるADRという選択肢があります。まずはその存在を知ることが、納得のいく解決への第一歩です。
リコ活では、離婚問題に精通した弁護士が中立的な立場で話し合いをサポートする「リコ活調停」をご提供しています。対立を深めず、お互いが納得できる解決を目指したい方は、ぜひ一度ご相談ください。
後編では、竹内弁護士がADRに関わるようになった経緯や、国内外で学んだ実践的な知見についてお話を伺います。
弁護士法人鬼頭・竹内法律事務所所属。愛知県弁護士会所属。2000年弁護士登録。離婚事件を中心とした家事事件に25年間携わる。2016年アメリカ国務省IVLPプログラム参加。愛知県弁護士会紛争解決センター副委員長・国際ADRあっせん仲裁人、公益社団法人日本仲裁人協会常務理事・中部支部長として、ADRの普及に尽力。