設立趣意書
日本の家族のかたちは、この百年余りの間に大きく変化してきました。
戦前の家制度、戦後の核家族・専業主婦モデルを経て、現代は、夫婦が対等なパートナーとして役割や責任を柔軟に分かち合いながら生活を営むことが求められる時代にあります。
しかし、こうした家族観の変化に対して、日本社会の紛争解決インフラは、十分に応答できているとは言い難い状況にあります。司法はもともと規模が小さく、介入抑制的に設計されており、家庭裁判所の実務においても、母子関係の保護を中心に据えた運用が長く続いてきました。また、離婚を「夫婦の失敗」と捉え、当事者の切実な要望が十分に汲み取られなくてもやむを得ないとする意識や、「わがままを抑えること」が調停の役割であるとする抑圧的な調停観が、少なからず存在してきたことも否定できません。
かつて家事調停は、当事者が比較的気軽に利用できる手続として運用されていました。しかし近年では、手続に弁護士代理人が関与する割合は大きく増加しています。2001年には夫婦関係調整調停のうち代理人付の事案は約2割にとどまっていましたが、2023年には6割を超えるに至っています(弁護士白書2016年、2024年)。期日間隔は長期化し、家庭裁判所は効率化のために一回あたりの審理時間を短縮せざるを得ない状況にあります。
本来、夫婦関係調整調停は、子どもの利益を最優先に、両親それぞれが将来にわたってどのように主体的に子育てに関わっていくかを話し合う場であるはずです。しかし現実には、相手方の人格や親としての適性を否定する主張が、弁護士の作成した書面を通じて応酬され、そこに多大な時間、労力、コストが費やされている場面も少なくありません。
家庭裁判所の改革は重要な課題でありながら、十分に議論されてきたとは言えません。
その一方で、家事ADR・ODRは、不要な対立を激化させることなく、未来志向で実質的な話し合いを可能にする手法として、少しずつではありますが実績を積み重ねてきました。利用者からは、「冷静に話し合うことができた」「前を向いて次の人生を考えられた」といった肯定的な声も寄せられています。
しかし、家事ADR・ODRを担う組織の多くは、組織基盤や財政基盤が脆弱であり、また、高い専門知識、技能、倫理観を備えた調停人を十分な数確保することが難しいという課題を抱えています。
こうした現状を踏まえ、一般社団法人 家事ADR・ODR調停人育成機構は、離婚という人生の大きな節目において、当事者それぞれが新たな人生を前向きに歩み出し、何よりも子どもの利益が最大限に尊重されるよう支援できる調停人の育成を目的として設立されました。知識・技能のみならず、高い倫理観と当事者への深い理解を備えた人材を育成し、家事ADR・ODRの分野において、調停人間、家事ADR機関間で、質の高い健全な競争が促される環境を整えていく、本機構の中心的な使命としています。
過度に個人の自己責任に委ねる社会ではなく、人と人とが支え合い、安心して子どもを育てていける社会を実現するために、本機構は、その一翼を担うべく、地道であっても誠実な取り組みを重ねていく所存です。